♢おじいさんのイヌ化♢

おサルの画家ギャラリー

脱衣所の窓を開けると、犬の遠吠えが聞こえた。


お風呂に入り、一日の疲れを流した。

ドライヤーを手に取ると再び遠吠えがした。

気のせいではなかった。

艶やかな髪を指に巻き付けリビングへ向かった。

「遠吠えが聞こえたんだけど。」
「ウチってペット禁止だったよね。」

兄が口を開いた。

「ついにきたか。おじいさんのイヌ化」

この近所で、おじいさんがイヌに変化してしまうことが、問題になっていた。

いつも、お菓子をくれるおじいさんの家も

留守の時は白い犬が出迎える。

ずっと不思議に思っていた。

昼間ならおじいさんを見かけることが多いのに。

こどもは成人して家を出ていった。お正月にしか帰ってこない。

日中は、ジョギングや犬の散歩している人を見ることができる。

スズメやカナブンも集まってくる。

太陽が気持ちいいと毎日思える。

しかし、日が沈むと、どんなに汗ばんだ日中でも寒気がする。

窓から入る隙間風は、女性の叫び声にも聞こえる。

暗闇の中、何も見えない。

月を見るのも心が痛い。

私の人生、これでよかったのか。

さみしい。。さみしい。。。さみしいよ。。。

ワゥン。わぅん。。。わぅーん。ワゥーン。

ワイドショーのテーマ曲で目が覚める。
またリビングで寝てしまったのか。
もうすぐお昼の時間だ。
太陽がまぶしい。

数年前妻が猫になって出ていった。振り返ることもなく。
「自由になりたいの」

あれから毎朝どこかですれ違う、グレーのネコ。

あれは彼女なのだろうか。

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