脱衣所の窓を開けると、犬の遠吠えが聞こえた。
お風呂に入り、一日の疲れを流した。
ドライヤーを手に取ると再び遠吠えがした。
気のせいではなかった。
艶やかな髪を指に巻き付けリビングへ向かった。
「遠吠えが聞こえたんだけど。」
「ウチってペット禁止だったよね。」
兄が口を開いた。
「ついにきたか。おじいさんのイヌ化」
この近所で、おじいさんがイヌに変化してしまうことが、問題になっていた。
いつも、お菓子をくれるおじいさんの家も
留守の時は白い犬が出迎える。
ずっと不思議に思っていた。
昼間ならおじいさんを見かけることが多いのに。
こどもは成人して家を出ていった。お正月にしか帰ってこない。
日中は、ジョギングや犬の散歩している人を見ることができる。
スズメやカナブンも集まってくる。
太陽が気持ちいいと毎日思える。
しかし、日が沈むと、どんなに汗ばんだ日中でも寒気がする。
窓から入る隙間風は、女性の叫び声にも聞こえる。
暗闇の中、何も見えない。
月を見るのも心が痛い。
私の人生、これでよかったのか。
さみしい。。さみしい。。。さみしいよ。。。
ワゥン。わぅん。。。わぅーん。ワゥーン。
ワイドショーのテーマ曲で目が覚める。
またリビングで寝てしまったのか。
もうすぐお昼の時間だ。
太陽がまぶしい。
数年前妻が猫になって出ていった。振り返ることもなく。
「自由になりたいの」
あれから毎朝どこかですれ違う、グレーのネコ。
あれは彼女なのだろうか。
